雑司が谷仕事場作り日記

●2006年8月〜実店舗開店までの約3ヶ月間のドキュメンタリー。お店を持ちたい方のご参考になれば幸いです。

●一番古い記事から読んでいくと進捗状況がわかります。
>> https://tabineko.ocnk.net/phone/diary-detail/101?category=4

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両親が仕事場を見にやってくる。ムスメが何を始めるのか、心配半分、好奇心半分といった顔で。父親には2階倉庫スペースの内装やら、床板張り、棚作りなどを手伝ってもらうことになっている。もともと大工仕事が大好きで、実家に屋根裏部屋を増築した時など、業者が設置していったハシゴが気に入らないと言って、2階から3階へ上がる階段を自分で作ってしまったこともある。今回の話にもかなり乗り気になっている。今日は下見のつもりだったのに、古い天井板や、壁のベニヤ板をバリバリとものすごい音を立てて剥がしてしまい、中がどうなっているか調べだしたので、こちらがヒヤヒヤしてしまった。

案の定、音に驚いた大家さんが様子を見に来る。両親と大家さん、ごたいめーん。ずいぶん話に花が咲いてしまい、大家さんの人柄もよく伝わってきて、いい感じ。先はどうなるのかまだ全然見通しがきかないのだが、とにかくちょっとずつちょっとずつ、進めていくしかないと思っている。

都電で早稲田まで行ってバスで帰るという両親と、鬼子母神前で別れる。日が暮れて、鬼子母神の境内からなにやら威勢のいい太鼓の音。

紅白ちょうちんの列が木陰からチラチラと見えている。聞こえてくるは東京音頭


久しぶりに見る盆踊り かなりの人出です


みんな楽しそうに踊っている その輪は三重!


お姐さん方 年に一度の晴れ舞台


縁日もいいよね イカ焼きの香り立ちこめる


仕事場では金魚を飼いたい

縁日を冷やかしている間も、どんどん盆踊りの曲が変わっていく。曲の間に必ず、年輩の女性が少し気取った声で、
「つぎは、しょーねんやぎぶし、ほっかいぼんうた、はいります」
などとマイクで言う。「はいります」というのが泣かせる。

まだよそ者の私は、輪の外から踊る人々を眺める。秋の御会式とはまた違った、柔らかい表情をしている。雑司が谷の人は本当にお祭りが好きなんだろうな。櫓の上で“お手本”となって踊りをリードするお姐さん方を見ていたら、突然、涙が出そうになる。ふだんは家庭の主婦だったり、商店のおかみさんだったりする人が、あんなに生き生きと、格好よく踊っている姿に感動してしまったのだ。あんなに一生懸命な人達を見たらもう駄目なのだ。ううっと今にも涙がこぼれそうになり歩き出す。

和太鼓連のそばへ行って、男前のお兄さんが太鼓を叩くのを見て気持ちを鎮めた。

来年は絶対、東京音頭だって炭坑節だって踊るかんね、と決意する。
8月から仕事場を別途借りることにした。今日は七夕、大安吉日。不動産屋にて物件の契約を済ませてきた。

この物件、6月半ばにインターネットで見つけて、翌日には内見に行った。場所は豊島区雑司が谷。都電荒川線の鬼子母神駅から歩いて5分ほどの場所である。JR山手線目白駅、池袋駅からだと徒歩15分ちょっとぐらい。物件は元は美容院というより、昔ながらの“パーマ屋さん”という言い方がしっくりくる昭和の香りただよう造作。地元の人しかやってこない小規模な商店街の一角にある。

雑司が谷は何かと縁がある土地で、私の同居人は雑司が谷で生まれ育っている。今は東京音大の校舎になってしまったが、鬼子母神病院で生まれ、今回借りることになった物件のすぐ裏手にある、旧高田小学校(現在は統廃合され校舎のみが残る)に通っていた。

そのため、同級生や知り合いがこの辺りにたくさん住んでいる。毎年10月に行われる鬼子母神の御会式には、私もここ15年ぐらい参加していて、楽しみにしているお祭り。

それから、お世話になっている高尾事務所もすぐ近く。私はこの事務所でホームページ制作やソフトの勉強をさせてもらった。社長の高尾さんとはその後も写真展などでご一緒させていただき、神楽坂・アユミギャラリー、サンポイズムのご縁にも繋がった。私のデジタル師匠として頭の上がらないお方である。

繁華街の池袋に近いのに、中間にある鬼子母神、大鳥神社、巨大な雑司ヶ谷霊園がクッションとなって、雑司が谷はまるで「村」のような風情となっている。実際、町全体の高齢化が進んでいて、道行く人はお年寄りが目立つ。子供が少ないから小学校も中学校も統廃合でなくなってしまった。大型スーパーもない。山手線円内の「取り残された町」と言ってもよい。

だから雑司が谷が好きなのだ。

これは負け惜しみでもなんでもなくて、雑司が谷にはたくさんの路地があり、坂道があり、井戸があり、古い家々が残っている。町が熟成している。ここには、なんちゃらヒルズが逆立ちしたって真似のできない、庶民が積み重ねてきた生活を感じることができるのだ。

そんな町で、これから仕事ができると思うと一人ニヤニヤしてしまうのだが、真夏の一番暑い時に、内装工事や棚作りをしなくてはならないし、事務所兼倉庫として使うためにクリアしなくてはならない事項もたくさんあり、しかも、ちょっとした店舗の部分も作ろうという魂胆なのだから。暑さでボンヤリしているヒマはないのである。

これからの仕事場作りを順次、「雑司が谷・仕事場日記(仮)」としてアップしていきますので、どうか温かい目で見守ってください。

契約の日、鬼子母神はちょうど縁日だった


朝顔市ものんびりと


雑司ケ谷鬼子母神は、鬼の字のツノがありません 読み方も正しくは「きしもじん」ですよ(ちゃんとパソコンでも変換されます) 安産・子育ての神様ですが、商売繁盛、無病息災をお祈りしました