■雑司が谷の熱い夜

両親が仕事場を見にやってくる。ムスメが何を始めるのか、心配半分、好奇心半分といった顔で。父親には2階倉庫スペースの内装やら、床板張り、棚作りなどを手伝ってもらうことになっている。もともと大工仕事が大好きで、実家に屋根裏部屋を増築した時など、業者が設置していったハシゴが気に入らないと言って、2階から3階へ上がる階段を自分で作ってしまったこともある。今回の話にもかなり乗り気になっている。今日は下見のつもりだったのに、古い天井板や、壁のベニヤ板をバリバリとものすごい音を立てて剥がしてしまい、中がどうなっているか調べだしたので、こちらがヒヤヒヤしてしまった。

案の定、音に驚いた大家さんが様子を見に来る。両親と大家さん、ごたいめーん。ずいぶん話に花が咲いてしまい、大家さんの人柄もよく伝わってきて、いい感じ。先はどうなるのかまだ全然見通しがきかないのだが、とにかくちょっとずつちょっとずつ、進めていくしかないと思っている。

都電で早稲田まで行ってバスで帰るという両親と、鬼子母神前で別れる。日が暮れて、鬼子母神の境内からなにやら威勢のいい太鼓の音。

紅白ちょうちんの列が木陰からチラチラと見えている。聞こえてくるは東京音頭


久しぶりに見る盆踊り かなりの人出です


みんな楽しそうに踊っている その輪は三重!


お姐さん方 年に一度の晴れ舞台


縁日もいいよね イカ焼きの香り立ちこめる


仕事場では金魚を飼いたい

縁日を冷やかしている間も、どんどん盆踊りの曲が変わっていく。曲の間に必ず、年輩の女性が少し気取った声で、
「つぎは、しょーねんやぎぶし、ほっかいぼんうた、はいります」
などとマイクで言う。「はいります」というのが泣かせる。

まだよそ者の私は、輪の外から踊る人々を眺める。秋の御会式とはまた違った、柔らかい表情をしている。雑司が谷の人は本当にお祭りが好きなんだろうな。櫓の上で“お手本”となって踊りをリードするお姐さん方を見ていたら、突然、涙が出そうになる。ふだんは家庭の主婦だったり、商店のおかみさんだったりする人が、あんなに生き生きと、格好よく踊っている姿に感動してしまったのだ。あんなに一生懸命な人達を見たらもう駄目なのだ。ううっと今にも涙がこぼれそうになり歩き出す。

和太鼓連のそばへ行って、男前のお兄さんが太鼓を叩くのを見て気持ちを鎮めた。

来年は絶対、東京音頭だって炭坑節だって踊るかんね、と決意する。